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最高裁判所第三小法廷 平成3年(オ)324号 判決 1992年11月06日

上告人

内川長年

岩佐光廣

被上告人

竹内宏

右訴訟代理人弁護士

細木歳男

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人らの上告理由第一点の一及び第二点について

所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

同第一点の二について

原審の適法に確定した事実関係によれば、(1) 被上告人は、昭和五六年一月三〇日、上告人内川から本件(一)土地を買い受け、同年三月二三日、所有権移転登記を経由したが、その間の同年二月四日、樋口孝利が上告人内川に対する貸付金債権の担保として同土地に抵当権(以下「本件抵当権」という。)の設定を受け、その旨の登記を経由した、(2) そこで、被上告人は、同年五月二六日、上告人内川及び樋口の代理人中山日和と協議の上、被上告人が上告人内川に代わって本件抵当権の被担保債権である前記貸付金の残金一二三〇万円(以下「本件貸付金債権」という。)を支払うこと、その支払は被上告人の上告人内川に対する売買残代金をもって充てることとし、当日、中山に一二三〇万円を支払った、(3) しかし、本件抵当権については、同年五月二七日(被上告人が代位弁済をした日の翌日)、上告人岩佐が、樋口から本件貸付金債権を譲り受けたことを原因として、権利移転の付記登記を経由していた、というのである。

右の事実によれば、本件抵当権は、被上告人がその被担保債権である本件貸付金債権を代位弁済したことによって消滅したところ、上告人岩佐がその後に樋口から当該貸付金債権の譲渡を受け、債務者である上告人内川が異議を留めずに債権譲渡を承諾しても、これによって上告人内川が上告人岩佐に対して本件貸付金債権の消滅を主張し得なくなるのは格別、抵当不動産の第三取得者である被上告人に対する関係において、その被担保債権の弁済によって消滅した本件抵当権の効力が復活することはないと解するのが相当である。被上告人が上告人岩佐に対して本件抵当権設定登記の抹消登記手続を求める請求は認容されるべきもので、これと同旨の原審の結論は正当として是認することができる。論旨は、原判決の結論に影響しない部分を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官園部逸夫 裁判官坂上壽夫 裁判官貞家克己 裁判官佐藤庄市郎 裁判官可部恒雄)

上告人らの上告理由

第一点 原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令及び判例の違背がある。

一、原判決は、売買契約に非ざる契約を売買契約とした違法があり理由不備齟齬がある。

(一) 原判決は、九丁裏において

「同控訴人は、昭和五六年一月、被控訴人に対し、前記売買残代金のうち、一五〇万円を早急に支払ってもらえるのであれば本件(一)土地を売買物件に加え、本件(一)(二)及び(四)の土地建物について所有権移転登記をしてもよい旨申し入れた。被控訴人は、右申し入れを承諾し、同月三〇日、控訴人内川に対し一五〇万円を支払い、……」

と事実認定をなし、これが法的評価を原判決一〇丁裏において

「本件(一)土地を昭和五六年一月三〇日にそれぞれ買受けて所有権を取得し……」

と判断し、昭和五五年一二月二八日の売買契約(以下第一契約という)とは別個の昭和五六年一月三〇日の売買契約(以下第二契約という)の成立を認定している。

(二) 売買契約はいうまでもなく、「或財産権ヲ相手方ニ移転スルコトヲ約シ、相手方ニ之カ其代金ヲ払フコトヲ約スル」ことによって成立する契約であるから、第二契約における代金が明らかでなければならない。

その点原判決は、第二契約の本件(一)土地の対価を明示せず、判断脱漏理由齟齬であるが、これを善解すると、第一契約の買主である被上告人が売主である上告人内川に対して当然支払義務を有する第一契約に基づく代金二〇〇〇万円の残額一八〇〇万円の内金一五〇万円を弁済期より早期に受領したことによる利益と解しているようである。

だとすれば、右一五〇万円を早期に受領したことの利益は幾何であるか。六ケ月早く受領したときの利益であるとすれば、せいぜい三万七五〇〇円にしか過ぎない。

(150万円×年利0.05×1/2

=3万7500円)

本件(一)土地の時価は、乙第一四号証ノ一、二から明らかなように約六四〇万円である。

(1m21万6500円×388m2

=640万2000円)

(三) 特に第一契約の際除外したところの六四〇万円の価値を有する本件(一)土地を三万七五〇〇円程度の対価で売買契約を締結したと認定するには一般取引上首肯できる特段の事情がない限り経験則上是認できないといわねばならない。

原判決は、右特段の事情についてなんら認定するところがない(本件(二)ないし(四)の土地等が競売の申立をされるおそれが生じたとそれらしき事情を認定しているが、それだけでは特段の事情にはならない)ので、最高裁昭和三六年八月八日第三小法廷判決民集一五巻七号二〇〇五頁、大判大正一三年三月一日法律新聞二二六一号二二頁の各判例に反し、民法五五五条の解釈を誤まっているばかりでなく審理不尽、理由不備の違法があり破棄されるべきである。

(四) 原審が認定した第二契約についての事実については、売買契約と解すべきではなく、贈与若しくは負担付贈与と解すべきであると思料されるが、その点被上告人は主張せず、釈明権の行使もなかったのであるから、之を採るに由ないものである。

二、原判決は民法四七四条五〇〇条の解釈を誤った違法があり、理由不備齟齬の違法がある。

(一) 原判決は一一丁裏から一二丁表にかけて

「被控訴人は樋口に対し控訴人内川に代って一二三〇万円を支払うものとし、樋口は本件抵当権設定登記を抹消する、被控訴人の支払う右一二三〇万円は被控訴人の控訴人内川に対する売買残代金をもってこれにあて……ることにしたこと、被控訴人は、本件(一)土地の買受人として、同年五月二六日樋口の代理人中山に対し前記被担保債権の全額である一二三〇万円を控訴人内川に代位して支払ったこと」

と認定し

これが法的評価を一二丁裏で

「被控訴人は、本件(一)土地の所有権取得者として、樋口の控訴人内川に対する前記抵当権の被担保債権の全額である一二三〇万円を、昭和五六年五月二六日樋口の代理人中山に弁済したのであるから樋口の右債権及び抵当権は民法五〇〇条により当然被控訴人に移転され、右のうち債権の移転については対抗要件を必要としないものということができる」

と判断している。

(二) すなわち、原判決は、被上告人が樋口の代理人中山に支払った一二三〇万円について

1、上告人内川に対する本件不動産の代金の一部の弁済であると同時に、債権者も発生原因も異なる。

2、樋口に対する本件抵当権の被担保債権の代位弁済

であるとして、一個の給付を全く異なる代金債権と貸金債権に対する各本旨弁済と解しているのである。

一個の給付が異種の二ケの金銭債権の本旨弁済となるとすることは論理的に明白に矛盾しているといわねばならない。

(三) 被上告人は、上告人内川に対して不動産売買代金債務一六五〇万円の支払義務を負担していたのであるから、樋口に支払ったその内金一二三〇万円は元来上告人内川に対して支払うべきものである。だとすると、樋口への被上告人の弁済は、上告人内川の使者又は代理人として、同上告人の指示に基づき、代金弁済の方法として支払ったものでなければ、上告人内川の代金債権が消滅する筈はない。原判決は上告人内川の代金債権はいまだ残存するというのであろうか。

原判決のいうように「樋口の右債権及び抵当権は民法五〇〇条により当然被控訴人に移転され」るのであれば、一ケの弁済行為により被上告人は上告人内川に対する代金債務も消滅させたうえ、同額の他者(樋口)の被担保債権も右弁済による代位により取得するという誠に不可解な一挙両得の不合理な結果の招来を容認するもので、民法四七四条五〇〇条の解釈を誤るも甚だしいものである。併せて審理不尽、理由不備の違法があり破棄さるべきである。

第二点 <省略>

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